辻口シェフが行く、知多半島コラボレーションの旅(前編)
豊かな大地の恵み、悠久の歴史に育まれた伝統。
知多半島の食文化に新たなエッセンスを
一年を通して温暖な気候の知多半島は、みずみずしく豊かな味わいの野菜や果物の宝庫。
知多半島ならではの素材を求めて、辻口シェフは、多忙なスケジュールの合間を縫って知多半島を訪れました。
現地の食文化に触れ、事前に厳選した多くの店舗の中から辻口シェフが訪れたのは大府市の「やまや」。洋菓子のスペシャリストである辻口シェフが選んだコラボレーション先は、意外にも漬物づくりの老舗でした。
「やまやさんの豊富な商品ラインナップを見て、地元の野菜を熟知されている会社だと感じました。さらに、素材を生かす確かな加工技術にも敬服しました」。
大根やカブなどの定番の野菜はもちろん、愛知の伝統野菜である”かりもり”や、トウモロコシまで漬物にするやまやの技術とアイデアから、辻口シェフも大きなインスピレーションを得たようです。
「漬物に使うお酢も、古くからの知多半島の醸造技術が生かされている素材ですよね。この地域の野菜とお酢を組み合わせて、今までにない味わいの商品にチャレンジしたいと思いました」。
発酵文化・お酢の可能性
お酢や酒、味噌・たまりなど、醸造品の豊富な知多半島。辻口シェフに、発酵文化について伺いました。
「パリのサロン・デュ・ショコラ(※チョコレートの祭典)にも日本の発酵とカカオの発酵を組み合わせ、そのマリアージュをテーマに仕事をしてきました。これまで誰もやってこなかった、日本のもつ発酵の技術や考え方をショコラティエの世界に持ち込んだりもしています。お酢はジュレやドリンクなどにも生かしていけますし、色々なフルーツと組み合わせることで、お酢の使い方は無限に広がります。これからも、ますます日本の酢の技術、広がりを表現していきたいと思います」。
◆漬物『やまや』(有限会社やまや)
大根の産地である大府市で80年以上前から「たくあん」等を作り始め、現在まで続く漬物店。地元で収穫される木の山芋や巨峰などの特産品を使った新商品の開発にも積極的に取り組む。新鮮な野菜の楽しい食べ方を提案するとともに、漬物を通じて日本の食文化を伝えている。
愛知県大府市長草町下田ノ松31
やまや×辻口博啓 「たまねぎのラズベリー漬け」
大府市の老舗「やまや」とのコラボレーションから生まれたのは、丸々として大きな玉ねぎを、まるごとラズベリービネガーに漬けた一品。生でも食べられる知多半島産の新玉ねぎの甘みにやさしい酸味を加えた爽やかな風味のお漬物です。シャキシャキの食感に、ふわりと口に広がるラズベリーの香り。ころんとした見た目も可愛らしいヘルシーなお土産は、幅広い世代に喜ばれそうです。
辻口シェフより
「僕自身がパティシエなので、馴染みのある素材として、色合いがよく非常に酸味のあるラズベリー、そのラズベリーから作り上げられたビネガーと玉ねぎは合うのではないかと考えました。それを組み合わせて商品を作って欲しい、と『やまや』さんにお願いしました。
今回試食させていただいて、玉ねぎがとても甘くて、イメージ以上に仕上げていただけました。”漬物と健康”をテーマにもしていたので、これでみなさんの血液もサラサラになると思います。」
辻口シェフのルーツ、能登半島に想いを馳せる。
半島文化に息づく “素材への愛”
辻口シェフが次に訪れたのは、江戸時代から続く銘店、半田市の「松華堂菓子舗」。現在は主にフランス菓子を手がける辻口シェフですが、実家は石川県七尾市で和菓子店「紅屋」を営んでいました。
「僕の故郷も海に囲まれた能登半島。自分のルーツとなった半島文化が息づいているのは、知多半島も同じです。」
同じ和菓子屋の生まれということもあり、松華堂6代目となる専務、内田雄介さんとの話も弾みます。故郷に思いを馳せつつ、「半島に息づくのは、日本人が忘れかけている”素材に対する愛”や、”人と人とのあたたかな交わり”の文化」だと語ってくれました。この地域で長きにわたって手土産として愛される松華堂の「松かげ」はまさに、半島文化のイメージを象徴するお菓子だったようです。
和菓子・生菓子『松華堂菓子舗』
江戸時代後期、知多郡南知多町に『松屋』という屋号で開業。明治30年代前期に半田に移転、屋号も松華堂と改める。上生菓子を中心とした名物菓子は各種博覧会等で優等賞を獲得。現在も伝統的な製法を守り、添加物を使わない安全で安心な製品作りを理念とする。「松かげ」「みそ松風」や地元の溜り醤油を使用した和風ロールケーキ「溜ロール」は手土産品としても人気。
愛知県半田市御幸町103番地 http://handa-shokado.co.jp/
松華堂菓子舗 × 辻口博啓「松かげ ヘーゼルナッツ味」
カリッとした小気味よい歯ざわりに、たっぷり使った卵と小麦の素朴な味わい。
一本ずつ手作りし、丁寧に焼き上げ和紙で包まれた「松かげ」は、普段のおやつから贈答用まで古くから地元の人に愛される、半田市の「松華堂菓子舗」の定番商品です。
ナッツやストロベリーなど、洋菓子で使われるさまざまなフレーバーとの相性を試した中で、辻口シェフが「松かげ」にプラスしたのはヘーゼルナッツ。「松かげ」の優しい口どけはそのままに、コクのあるナッツの滑らかさと芳香が豊かな余韻をもたらします。江戸時代から続く伝統の製法と、世界を舞台に活躍するパティシエのセンスの出会いが新しい感覚の和菓子を生み出しました。
<「辻口シェフが行く、知多半島コラボレーションの旅(後編) 」へ続く>
辻口 博啓 Profile
世界大会に日本代表として出場し、数々の優勝経験を持つ。製造・運営の他、企業とのコラボや著作、メディア出演など幅広く活動。
辻口 博啓オフィシャルサイト:http://www.h-tsujiguchi.jp/